酒を極めれば燗

旨い燗酒

“旨い燗酒”とただ漠然と言っても嗜好品ゆえどこをもって旨いとするかは皆さん次第。温めると口当たりが良くなるからと言う方もいれば切れ味が増すとかさばけが良くなるなど十人十色。もちろんお金を出して買われるのは皆さんですから,我々が強制すべき事でもないと思います。ただ,1980年代あたりの第一次吟醸酒ブーム以降燗酒に対してまだまだ誤解されている部分も多いという事も事実。燗酒はどういうメリットがあるのか,またどんな飲み方があるのか私なりに書いてみました。もちろん酒屋さんや酒蔵さんによって考え方も異なりますのであくまでも私の考えという事で…。

その1…冷酒に比べてどんなメリットがあるの?
よく“ポン酒いきたいんだけど翌朝つらくてなあ。”という方をお見受けします。こういったほとんどの方は冷酒を召し上がっていますね。人間の体温は大体35〜36度ぐらいですよね。そこにいきなり5度ぐらいのキン冷えのお酒を胃の中に注ぐのと体温に近い40度前後の燗酒を飲むのとどちらが体に負担が掛からないか。もうお解りですよね。内臓に負担が掛からなければその分,アルコールを分解する為の酵素の働きも活発になります。飲む量が一定量を越えてしまえば同じなのでしょうが,造りの善し悪しは別に,お酒を飲む温度によって翌日の体調がかなり異なってくる事,おぼえていても損はありませんよ。
また,清酒の場合,旨味を形成している主たる酸はアミノ酸です。全てが全てではないと思いますが,アミノ酸は比較的温度が高くなるにつれ,味に膨らみも出てきます。冷やした時は淡麗に感じたお酒も,あたためる事で旨味がより引立ってきたという経験,皆さんもおありなのではないでしょうか。

その2…レンジで燗しちゃだめなの?
私も湯煎でゆっくりと温めた方が旨くは感じます。ある酒蔵さんも“レンジは酒の分子構造を壊してしまうからおすすめしません。”と言っておりました。しか〜し,目に見えない所で湯煎とレンジで燗したものを出されて,そろぞれどちらか当ててみろと言われれば,当てる自信は・・・・,残念ながらありませんし,はずかしながら私め面倒臭い時はレンジで燗してしまう事も実際あります。
とにかく温める方法はどうあれ,最初は酒を温めて飲んでみるという事を習慣つけていただく方が先決なのではないでしょうか。

その3…吟醸酒や生酒は燗しちゃいけないの?
そんな事はありません。むしろ冷やでは口当たりが良く,味もごまかせていたのに,燗すると砂糖水のようになってしまうものなど,アラが一気に出てくるのが燗の妙味。ほとんどの清酒がキン冷だと旨味が奥に閉じこもったままで,味わいも淡麗に感じてしまいますが,温めてやる事で繊細な香味がじんわりと出てきて,無濾過生原酒などでも芯のしっかりとした酒などはむしろ冷やよりもあたりがやわらかくなって,信じられない程燗上がりしてしまうものさえあるのです。ただし,先に書いた通り,皆さんの想像を裏切ってしまうものも多々存在しますからね。ふっふっふ。

その4(New)…濾過を施したお酒とそうでないお酒。
近年,出来上がったお酒をあまり加工しないで,蔵出しの旨さを味わって欲しいという目的で,『無濾過生原酒』という表示のお酒が増えてきました。また火入したり割水を施したお酒でも,無濾過と表示したお酒を多々見かけるようになりました。通常搾られたお酒は炭素の入った濾過機を通して,汚れをとったり色合いを調整したりします。「製造物責任法」の施行により,味を均一化したり,酒質の劣化や不純物の混入などを最小限に抑えるためにも,特に流通の広い大手メーカーなどになればなる程,必要になってくる事なのです。しかし,過度の濾過は本来お酒の持つ旨味成分まで損なってしまう事も事実。特に上で述べた燗した時の味の広がり方には雲泥の差が出てくる時もあるのです。私は個人的にはやはりなるべくこの辺の加工をしていないお酒の方が好きですが,この濾過という言葉の解釈もかなり曖昧で,色素を吸着してしまう炭素濾過をしていなければ『無濾過』の表示をしていいんだろうと,科学的レベルにメの細かいフィルターを用いて,炭素濾過以上にお酒の旨味成分を除去してしまって味がスカスカになったお酒を飲んだ事もあります。
とにかく機会があありましたらぜひ一度,同じ酒蔵さん使用米や精米歩合など比較的近い火入,生,濾過,無濾過のそれぞれを燗でどうぞ飲み比べなさってみてください。ほとんどの酒蔵さんと酒屋さんも生酒は冷やでとすすめますが,お金を払うのは皆さんですし,どの温度帯で味は栄えるかはやはり皆さん御自身が舌で確かめられるのが一番ですものね!!ぜひ,お試しあれ!!

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