本格焼酎への大きな誤解

その1 はずかしながら自分自身も誤解していた。

 私も実は若かりし頃,単車で九州を旅した時に鹿児島で,せっかく来たのだからと芋焼酎“○摩○波”のカップを酒屋で買い,友人とテントの中で“くぁんぷぁ〜い!”のかけ声の3秒後に吐き出した想い出があります。ただでさえパンチのある芋焼酎を25度の生で飲み慣れない関東人が一気すりゃだれだってこうなりますよね。その時は度数の強さに吐き出したのか,個性の強さに吐き出したのかは定かではありませんが,それ以来自分が酒屋に従事するようになってからもしばらくの間は本格焼酎と言うとどうしてもこの時の記憶がよみがえり,積極的にお客様にもアピールする事ができませんでした。

 数年の歳月が流れたある日の事。当店でよく地酒を買われるお客様が“私,今本格焼酎に凝ってるんですけど,いせもとさんはこれだけ地酒扱っているのに何でやられないのですか?”とたずねられ,例のいきさつを話すと“特に常圧の焼酎は飲み方によって味は全く変わってきます。そんな乱暴な飲み方すりゃだれだって嫌になりますよ。ぜひ,もう一度お湯割りで飲んでみて下さい。いいですか,お湯が先ですよ!”と言われ,同時に売り手である私がお客様から教えを被った情けなさと不勉強であった恥ずかしさを強く実感して,早速その晩,店にあった甕貯蔵のある芋焼酎を言われた通りに飲んでみたのですが,生で飲むとドライに感じた味わいが,お湯で割るとさつま芋の甘い香りとまろやかな口当たりに豹変し,自分が全く想像をしなかった旨さに出会えたのです。また,たかだかお湯を入れる順序だけで味なんか変わる訳ないという考えも大きな間違いであるとこの時実感したのでした。

 それからというものの,芋に限らずいろいろと試してみましたが,同じ原料でも蒸留の仕方や熟成方法によって全く味が異なる本格焼酎の奥深さには私にとって清酒とは全く別の魅力が存在し,この魅力を一人でも多くの飲まず嫌いの方に理解していただけるよう品揃えも徐々に変えていったのです。

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